登録年度 | 2003年度 |
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氏名 | 後藤 道雄 (ゴトウ ミチオ) |
部門 | 市民 |
性別 | 男 |
年代 | 70代 |
専門分野 | 生命、生態系・生物多様性、消費生活・衣食住 |
主な活動地域 | 沖縄県中頭郡北中城村 |
主な経歴 | 平成元年より、無数のミニ地下ダム構想、国産材使用合板の研究・実用化を主導。平成14年より3年間、閉鎖型生態系の暮らしを実践。その経験を生かして林間学校を開催し現在に至る。自然と人間の共生は日本の文化に帰着するとの考えから、伝統構法による設計を行い日本の技術や暮らしを啓発している。 |
特記事項 | 地域文化と伝統構法・地下水保全を一体的にとらえた「龍の道ものがたり」を執筆・自費出版。技術士【建設部門】【総合技術監理部門】・一級建築士・インテリアプランナー他 |
活動の紹介
「暮らしそのものが環境保全活動」
1024年1月21日(日)放送予定のテレビ朝日「ナニコレ珍百景」の取材を2023年11月26日から28日まで受けた。放送局から突然取材依頼があり、3日間の生活密着のロケがあった。テレビのない生活では「ナニコレ・・」の番組の内容は知らなかったし、何をもって「珍百景」になるのか不思議だったが、現在10人(最大12人)の我が家の暮らしぶりは世間からは「珍」に見えるらしい。環境保全は「家庭が原点」との信念から、自然の摂理に沿った生活を続けている。主宰する「きたなか林間学校」は「家庭生活」の延長線にある。
「SDGsに向けた環境保全に資する伝統的継ぎ手の研究指導」
現在主流のプレカットによる軸組み工法で建てる住宅は簡単便利で工期短縮にはなるが、金物や釘が多用されるため部材のリサイクルコストは伝統構法より1.5~5倍かかる。伝統構法の継ぎ手は金物類を使わないのでリサイクルコストは低減できる。ただ強度が落ちるのではないかとの懸念を払拭するため琉球大学工学部の協力を得て比較実験を行った。結果、コミセン(木)で繋いだ伝統構法の継ぎ手の方が強度大だった。これを実践教育訓練学会の「実践教育」の論文で発表し評価を得た。伝統構法の普及、建築文化の再生に生かしていきたい。
新聞連載「歴史に学び 文化で築く」1回~8回
沖縄建設新聞の連載「歴史に学び 文化で築く」は当初1年の契約だったが1年半(全18回)に延びた。読者は建設行政や建設関連業者、県内の工業系の学校(学生・生徒)など発行部数は約1万部。土木・建築は環境破壊者のイメージが強いが、だからこそ建設に携わる人たちの意識改革が重要との認識から、分かり易い事例を出しながら執筆している。
特に「日本人の自然観」に対する捉え方が見通せたことから、今後は建設分野でできる環境保全策の提案を毎月出していきたい。
「田んぼの授業」
北中城小学校5年生150名に稲作の講師依頼があった。傾斜地の荒れた畑を開墾して棚田を作ることから始めた。田植えと稲刈りだけの稲作体験が多いなか、環境保全のための畦畔づくりや草刈りの体験も取り入れた。地形を変えず、水は地下水を引き、無農薬・無化学肥料で栽培した。
人間と野生動植物の健康を害しないよう除草剤は使わず、肥料は飼っている与那国馬の馬糞のたい肥を使った。台風6号で稲は全部倒れたが、「遅れ穂」を収穫したのち稲穂は児童全員が正月用の」しめ縄」を綯(な)った。
「無国籍」から「純国産」の時代へ
自然と人間生活を生態系の観点から考えると、自立安定するのは閉鎖型(クローズドシステム)で例えば自然界では森、人間社会では里山。不安定なのは開放型(オープンシステム)で自然界では川、人間社会では大都市になる。つまりロシアのウクライナ侵攻でサプライチェーンが繋がらないと価格が高騰したり原材料の不足で業務が止まったりするのと同様、川にダムを造ったり都市に食料を送らないと生態系はマヒする。そのことを建築業界から警鐘し、原材料や技術をなるべく国産化することでリスク軽減できることを論じた。
日本の一戸建て住宅の特徴と畳文化
SDGSが叫ばれる昨今、もともと日本はSDGSに則した社会であったように感じる。住宅の視点で観ると日本の住宅は平屋が基本で、融通性、互換性、自在性に長けていた。したがって個室が少ないので床面積が少なくて済む。畳は日本の住文化には欠かせない存在だったが、椅子文化が普及してめっきり減った。畳2枚が1坪という日本独特の広さの感覚は生きている。土・草・木・紙などの再生可能な自然素材を生かした住まいづくりは自然環境にも優しいことを説いた。
強くて解きやすい建造物
建設廃材は全産廃約4億トンの約2割。木材のリサイクル率もコンクリートと同様100パーセントに近くなったが、リサイクルコストは近年の機械化、標準構造化で釘や金物が大量に使われている、したがってリサイクルコスト(リサイクルエネルギー)が増えた。伝統構法は釘や金物を躯体にほとんど使わないため再生エネルギー負担は少ない。そこで構造別のイニシャルCO2の排出量の比較や自分が設計した木造住宅のCO2の蓄積量を算出し公表した。釘を大量に使った継手とカシのコミセンの継手の強度比較で釘を使わない伝統的な継手が強かった。
「造りっぱなし建造物」のゆくえ
投稿による環境保全啓発活動。今回はスクラップアンドビルドを繰り返す日本の建設界の現状と、やりっぱなし、食べっぱなしなど後のことは知らないという無責任な家庭環境を重ねて論じた。世界最古の木造建築で世界遺産になっている法隆寺のメンテナンス、式年遷宮を繰り返し、20年後ごとに木材を再生、再利用し続ける伊勢神宮の事例を紹介し、丁寧な維持管理と長寿化、再利用のシステム化が環境負荷を低減できることを説明した。
「野生化」による洪水との共生
新型コロナ、インフルエンザが蔓延するなか、我が家の10人全員が両方感染した。したがって通常の活動ができなかったが、沖縄建設新聞社の依頼により「沖縄新聞」1面の「建設論壇」を隔月で掲載することになった。環境破壊者と言われる建設業界内部から環境保全への提言を全6回論じた。今年度はそのうち5回分。デジタル化、国土強靭化が進むが最後は自分自身の感性や野性力で前兆に気づき身を守ることが原始的ではあるが重要と説いた。
沖縄建設新聞「建設論壇」の連載1回目
沖縄建設新聞の1面「建設論壇」に他の7人と輪番で連載することになった。(約1500字)土木・建築の設計者の立場ではなく、「おきなわ環境塾」の塾長として業界専門紙で論ずることになった。初回は「自然との対話が育む職人文化」。これからあと5回、林間学校等の環境保全・教育活動で得た知見を自然破壊者といわれる建設業界の意識改革に生かし、自然の荒廃とともに進む感性の劣化にブレーキをかけるために、自然へ配慮する気持ちと技術を毎回提案していきたい。
月桃(げっとう)タタミの製作
沖縄の住宅は台風、シロアリ、塩害対策で戦後、アメリカ軍の影響でコンクリート造が普及した。しかし、最近は住み心地の良さで戸建て住宅に限っては木造が増えてきた。木材は防蟻工事で対応できるがタタミに防蟻剤を塗布するわけにはいかない。そこで化学薬品を使わずシロアリの忌避作用を生かして沖縄に自生する「月桃」を藁床(わらどこ)と畳表の間に入れた畳を製造者や設計者、消費者などと一緒になって製作、敷き込んだ。結果はまだわからない。
SDGsに向けた「環境保全に資する伝統的継手の研究」
「きたなか林間学校」に参加した中学生2名が環境負荷の少ない継手を使った部材(梁や柱)は強度が弱いのではないかという疑問を夏休みの自由研究の課題にして研究することになった。その指導をした。琉球大学工学部の協力を得て実験した結果、多くの釘を打った継手のほうが釘なしの伝統的継手より弱かった。環境負荷が少なくて強度が高い木造継手の研究成果は第61回沖縄県児童生徒科学作品展で最優秀賞を受賞。中間処理施設でのリサイクルの実態(リサイクル率は高くなったがコストも上がった)を聞いたことも大きい。
第32回「きたなか林間学校」の開催「私、大工職人になります!」
環境負荷の低減と日本の伝統的な木造技術の継承を目的に、将来を担う子どもたちに釘や金物を多用しない技術を体験するプログラム。快適便利な暮らしと機械化・規格化が進む建築現場はリンクしているため釘を使わない伝統的な木組みを子どもたちと行った。講演のあと、伝統的な継手もみんなで作った。少種大量の建設物は多種少量よりリサイクルエネルギーが小さいことが原点。参加者の中から日本の伝統建築技術を継承する者が出てくれることを願った。
建築関係大学生への研修
8月9日から9月11日までの約1カ月京都美術工芸大学1年、大分大学理学部1年、熊本県立球磨工業高校専攻科1年の男子3名が環境教育施設ぬちゆるやー・学習棟に宿泊して研修。その間、環境負荷の少ない伝統構法による住宅づくりの手伝いや近くの国指定重要文化財・中村家の見学(家畜の豚小屋フールの循環性など)、テレビのない生活、野草教室などを体験した。将来就く仕事の判断や暮らしぶりの見直しなどが研修対象になったと考える。
日本の再生の原動力・伝統文化
ゲストティーチャーでの講師。北中城中学校2年3組と1組(各36名)計2回授業.演題は「日本再生の原動力・伝統文化」。劣化した機能・感性を再構築するため日本の文化を身近な住まいで感じ取ることがひとつの方法と考えた。木造伝統構法の技術とその中での暮らしぶりを紹介した。
「日本人の暮らしとすまい」
沖縄県建築士会機関紙「紫微鸞駕」(しびらんが)に論文掲載。タイトルは「日本人の暮らしとすまい」.戦後、快適便利で欧米化した暮らしは日本の文化を崩壊していった。住まい作りも機械化され日本人の心が喪失、身勝手な事件が頻発している。機能分離した建設現場に日本文化を取り戻す提案。
さい帯血による再生医療推進活動
さい帯血による再生医療推進活動を継続。国内初のさい帯血の「きょうだい間投与」の臨床研究の計画が9月24日承認された。推進団体の代表としてNHK、全国紙などで取上げられた。自然由来のさい帯血による再生医療と自然と共生する現在の暮らしをパネル展や講演会、署名活動を行い厚労大臣あての要望書提出。
ヨナグニウマ・シマ山羊による中学校内の除草
7月より毎日~現在、自宅(環境教育施設)飼っているヨナグニウマとシマ山羊を各1頭、中学校内の除草に活用。校内美化はもちろん、天然記念物と固有種の生きものを身近に感じるため朝6時から夕方まで中学校内に係留。約540名の生徒、教職員50人、訪問者への紹介を継続中。北中城中学校より感謝状授与。
「細部から文化が見える」
「細部から文化が見える」を毎月連載。タイムス住宅新聞に自然環境の保全と、自然と人間の共生を建設分野から啓発(3年間計36回9月で完了)。今年度テーマは「通潤橋(熊本)」や「潜水橋(徳島)」「中村家住宅(沖縄)」など。自然の摂理に沿った土木・建築の技術や地域の文化を細部から点検、発表した。